2012年4月11日水曜日

アメリカの性教育の動向に関する一考察−根深い禁欲主義の影響について−


アメリカの性教育の動向に関する一考察−根深い禁欲主義の影響について−

堀田哲一郎

はじめに

 筆者は、20109月からアメリカのノースウエストミズーリ州立大学において1年間長期国外留学研修の機会を得ているが、所属が体育関係学科であるところから、たまたま州内において開催された体育関係の研究会であるミズーリ州保健・体育・レクリエーション・ダンス研究協議会(association)に参加し、そのなかで性教育に関する発表を聴取することができた。その発表者は、筆者の研修中の大学の卒業生でもあったことから、研修中の大学における性教育授業担当者と親交をもつことができ、授業参観及び各種資料や情報の提供を受けることができた。その成果をかいつまんでまとめてみたい。これは、性教育推進に困難を抱える日本の情況とも相重なるアメリカの国内事情の一端、特にその限界について指摘するものである。

 

T アメリカの性教育全体における禁欲主義の位置づけ

 20031月に開催された「アメリカの禁欲主義教育とわが国の性をめぐる諸問題との関連についてご理解いただくためのメディア・セミナー」で行われた内容をもとにしてまとめた書として『アメリカの禁欲主義教育と日本の性問題』と題した本が出版された。そこには、ブッシュ政権下の性教育が、青年に対して避妊の方法を科学的に教えることなく、精神主義的な禁欲主義によって推進され、その結果、妊娠増加には何も効果を挙げておらず、対して科学的な知識を基に教える包括的性教育の方が効果が高いという見解が示されている。さらに大藤(2005a,2005b,2008a,2008b)も同様に、ブッシュ政権下で推進された禁欲教育に効果がないという指摘がなされ、「包括的性教育への回帰」がすすむとともに、両方を取り入れた「禁欲プラス教育」というアプローチが盛んになり、ブッシュ政権とともに「禁欲教育の終わり」となるともされている。なお、大藤(2008a)では、「包括的性教育」の内容について、以下のように提示している。

 

@適切な年齢に応じた

A医学的に明確な

B宗教を持ち込まない

C禁欲が妊娠や性感染症を防ぐ唯一の方法だと教えない

D性交を経験した若者を無視したり、禁欲の価値を強調したりしない

E避妊やHIVAIDSを含む性感染症の危険を避ける全ての方法をはじめ、健康に関する正否両面の知識や情報を提供する

Fセクシュアリティについての家族のコミュニケーションを奨励する

Gどうやって断るか若者に方法を教える

H酒やドラッグが行動の決定にいかに悪影響を及ぼすか教える

 

 ところが、この裏づけと目される「ファミリー・ライフ教育」の法律の条文第3(b)では、以下のように記載されている。

 

1)年齢に相応しく医学的に正確である。

2)宗教を教えないか、または促進しない。

3)禁欲が妊娠や性感染症を避けるための唯一確実な方法であることを教える。

4)性交をしたか、またはしている若者を無視しないけれども、禁欲の価値を強調する。

5)妊娠を防止するための手段として、すべての避妊及び防壁方法の健康便宜及び副作用についての情報を提供する。

6HIV/エイズを含む性感染症に罹る危険を引き下げるための手段として、すべての避妊及び防壁方法の健康便宜及び副作用についての情報を提供する。

7)親と子との間で性についてのコミュニケーションを奨励する。

8)どのようにして望まれない言語的、身体的、性的な接近を避け、どのようにして望まれない言語的、身体的、性的な接近をなさないかを含む、性についての責任ある決定をなす技能を若者に教える。

9)どのようにしてアルコール及び薬物の使用が責任ある意思決定に影響を与えうるかを若者に教える。

 

 この2つを見比べたとき、@及びAが(1)であり、Cと(5)、Dと(6)はそれぞれ正反対の意味になり、Eは(5)及び(6)となり、Gは(8)より直接的表現であることが看取できる。大藤の定義の典拠が具体的に示されていないので、断定することはできないが、誤訳の可能性もあるのではないかという疑問をここで提起しておきたい。

 「包括的性教育」の目標に関して、池上(2003)は、WHOが交付し、そのアメリカ地区が公布した「Sexual Health の促進−行動勧告」の巻末にまとめられたものを引用し、下記のように提示している。

 

 ・単なる知識の習得よりも、性に対し肯定的な態度を醸成させる批判力のある考え方を育てる。

 ・自分自身が生涯を通じ性的な存在であることを、心配や恐れや罪の意識なしに認識し、確認し、そして受容できるようにする。

 ・人権に基づく価値観で、礼儀正しく公平な人間関係を促進するような性別役割の発達を育てる。

 ・単なる二人の関係を超えた人間関係の絆や情緒的な面の価値を高める。

 ・自分自身にも他人にも、楽しく意識的であり、かつ自由で責任ある性行動を育てる。

 ・カップルや家族の間のコミュニケーションを深める。性別や年齢にかかわらず平等な関係を推進する。

 ・家族計画、育児、避妊法の使用について、責任ある性行動を育てる。

 ・性感染症予防に関して、責任ある決断を促す。

 

 こちらに関しては、原文を確認することはできていないものの、アメリカ地区が公布したとはいえ、禁欲主義のことには言及されず、あえて言えば「心配や恐れや罪の意識」をなくそうとするところにその意義が看取できる。しかし、このWHOの交付による「包括的性教育」と、禁欲主義の傾向を前面に打ち出すアメリカ的「包括的性教育」とは、かなり性格の異なるものとなったのではないだろうか。そのように、アメリカ的「包括的性教育」が、禁欲主義を「包括」した内容であることを裏づける性教育の種類と定義を次に提示しておく。

 

 禁欲のみの教育:十代への性的な表現の唯一の道徳的に正しい選択肢として禁欲を教えること。それは通常、避妊やコンドームについての情報を含まない。これはときどき、禁欲中心の教育と呼ばれる。

 結婚まで禁欲のみの教育:未婚の若者への性的な表現の唯一の道徳的に正しい選択肢として禁欲を教えること。それは通常、避妊やコンドームについての情報を含まない。

 包括的性教育:性感染症及び望まない妊娠を避けるための最善の方法として禁欲を教えるが、意図されない妊娠及び性感染症への感染の危険を引き下げるためにコンドーム及び避妊についても教える。それはまた、対人及びコミュニケーションの技能を教え、若者に彼ら自身の価値、目標、選択肢を探求する手助けとなる。これはときどき、禁欲立脚教育または禁欲に追加した教育と呼ばれている。(ブルエス他,2009)

 

 アメリカでは、もし、こちらの方が主流だとすれば、そもそもアメリカ的「包括的性教育」そのものが「禁欲プラス教育」と同義であり、禁欲を優先に据えながら、避妊及びコンドームについても教えるというのがアメリカ的「包括的性教育」の本質であると言わなければならないであろう。「対人及びコミュニケーションの技能」や「若者に彼ら自身の価値」を教える点には評価できるところがあり、これらは上記の定義両方に共通しており、意図されない、または望まれない性的接近を避けるための技能を身につけるために重要であるといえる。ただし、「ファミリー・ライフ教育」の法律における親子間でのコミュニケーション奨励の中身は、むしろ「禁欲」を促進する方向で活用されることも想定できる。その� ��うな技能の奨励を端的に示す教科書を次に示したい。

 

U 『保健教育への手立て』にみる禁欲主義の影響

 この教科書は、対象を第6学年から第12学年としている。3人の著者による共著であるが、特に性教育の執筆に携わったとみられる著者の経歴を以下に掲げる。

 

 ドミニック・スプレンドリオは、ニューヨーク州立大学ブルックポート校から健康教育における学士の学位、ニューヨーク州立大学ニューパルツ校から人間学における修士の学位を取得した。彼は、ニューヨーク州ロックランド郡クラークスタウン・セントラル学区において30年以上中等及び高等学校健康教育を教えた。彼は、学校、州教育局、会社への保健関連提案において特化している教育相談会社である「プライム・タイム・ヘルス」の所有者であり、経営者である。

 スプレンドリオは、学校におけるセクシュアルハラスメント、男女のコミュニケーション、包括的性教育、HIV/AIDS、アルコール、たばこ、その他の薬物、ユーモアに関連した問題に関する多くの広域及び全米の協議会で研究会を開催した。スプレンドリオ氏は、ニューヨーク州年間保健教師に2度選ばれたことがある。子どもの誘拐防止、アルコール濫用、HIV/AIDS、セクシュアルハラスメント、皮膚がん防止、包括的性教育に関連した教育ビデオの制作に関与してきた。彼は、ニューヨーク州健康教育教師免許試験への内容審議会の議長としてサービスをしてきて、ニューヨーク州保健・体育・レクリエーション・ダンス協会長である。彼は、体育セントラル審議会で、保健及び体育教師への直結援助をサービスしている。スプレンドリオはまた、教育研究部との健康教育コンサルタントで、『あなたの健康教育指導を最適化するための外在的方策』と題した健康教育教授の手引の著者である。(ホウェイレン他,2007)

 

 上記の著者経歴でも、スプレンドリオが包括的性教育に関連していると述べられている。

 この教科書全体の目次は、第1 たばこ/2 アルコール/3 薬物/4 栄養/5 性教育/6 暴力防止/7 身体活動というように、幅広い分野を網羅しており、いずれもゲームによって学べるような教材となっている。問題の性教育を取り上げた第5章の最初に出てくる導入ゲームをみてみよう。

 

 

 

性教育導入ゲーム

禁欲ビンゴ(ホウェイレン他,2007)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あなたの息子さんがあなたをいじめた場合にどうするか

 

母親と禁欲を話し合ったことがある

 

 

父親と禁欲を話し合ったことがある

 

 

オーラル・セックスは禁欲の範囲だと感じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十代と禁欲を話し合うことは時間の浪費であると感じる

 

 

禁欲であることの3つの利点を挙げることができる

 

 

2の処女性とは何かを知っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーイフレンドやガールフレンドと禁欲を話し合ったことがある

 

 

あなたの健康教育授業において禁欲を話し合ったことがある

 

 

あなたが誰かを気にかけていることを示す性行為への代替を1つ名前を挙げることができる

 

 

 というように、「禁欲」を説教によってではなく、ゲームによって楽しく学べる工夫はされているが、最終的な到達点は「禁欲」であり、それ以外の性的な関係のあり方についての提示は全くみられない。以下、各課目の内容は、第1 性の自由発想(brain storming)/2 それは私の流れ(line)/3 生牡蠣は感情もある!/4 避妊コマーシャル/5 彼らは何を売っているのですか?/家庭−学校関係 希望及び恐れ/企画 伝言付きの音楽/評価となり、それぞれの内容も、コマーシャルや音楽を取り上げ、マルチメディアリテラシー教育の性格も有しているといってよい。最後の評価項目で、全体としてどのような学習内容の修得が期待されているかをみてみよう。

 

性教育評価

評価:実用的知識及び技能試験

必要時間

授業時間40-50分間

全米基準

・生徒は、健康増進及び疾病予防に関連した概念を理解するであろう。

・生徒は、健康を高め、健康危機を回避または低下させるための対人コミュニケーション技能を活用する能力を示すであろう。

小目標

1.生徒は、性教育に関連した知識及び技能を示すであろう。

資料及び準備

1.生徒につき1枚「実用的知識及び技能試験」を複写する。

2.試験様式に必要とされるように机を並べる。

手続[]

 

記入用紙5.7

性教育:実用的知識及び技能試験

指示

 この試験は、19の択一問題と2つの構成された応答(エッセイ)問題から成っている。すべての問題に答えなさい。

 正しい答えを○で囲みなさい。

1.妊娠を防止する唯一の100%確実な方法は…

a. コンドーム b. 禁欲 c. 経口避妊 d. 皮下式埋め込み避妊薬

2.皮下式埋め込み避妊薬の効力は

a. 6か月間 b. 1年間 c. 3年間 d. 5年間

3.デポ-プロベラとは

a. 12週に1度、与えられる必要のある注射可能な避妊薬である。

b. 女性の腕に埋め込まれ、3年間有効である。

c. 経口で毎日服用される。

d. 女性のワギナに挿入される。

4.男性にとって唯一の受胎調節の一時的な方法は

a. コンドーム b. 精管切除術 c. 不妊手術 d. 男性受胎調節ピル

5.様々な情報源によると、女性は性交に先立って  の長さで隔膜を挿入し、効力を有するであろう。

a. 30分間 b. 1時間 c. 3時間 d. 6時間

6.隔膜は、性交に続く最低  にワギナに留まらなければならないが、  以上ではない。

a. 1時間;8時間 b. 2時間;10時間 c. 4時間;15時間 d. 6時間;24時間

7.次に挙げるすべてのうち、現在利用可能な種類のワギナの殺精子薬でないものは

a. ワギナの避妊リング b. ワギナの避妊フィルム c. ワギナの坐薬 d. ワギナの泡

8.子宮内避妊器具がその場所にあることを確認するために、  の長さが照合されなければならない。

a. "T" b. 銅線 c. 糸 d. プラスティックの縁

9.精管切除術が切除し、結紮するのに関係しているのは

a. 海綿体 b. 睾丸 c. 精管 d. 輸卵管


どのように私は双子naturalyをconciveできます。

10.コンドーム使用規則は、次に挙げるもののうちどれに含まれるか。

a. コンドームを再使用しない。

b. もし、破れたら、すぐに交換する。

c. あなたは漏れの検査をするためにコンドームに水を入れてもよい。

d. コンドームに水性の潤滑剤を使用する。

11.避妊の方法を選択するとき、あなたは何を考慮しなければならないか。

a. 妊娠を防止する際の方法の効果性

b. 一貫し、正確な方法を活用する能力

c. 方法の安全性

d. 上記のすべて

12.経口避妊ピルを服用し始めて以来、生徒は、ひどい頭痛になり、それが収まるまで彼女は何もできなかった。彼女はどうしなければならないか。

a. 軽減のために規則的に鎮痛剤を服用する。

b. 無視する。頭痛は彼女の家族において当たり前のことである。

c. 彼女の保健ケア提供者に報告し、できるだけ早く彼もしくは彼女に診てもらう。

d. 上記のどれでもない。

13.説得の要点は

a. 誰かに彼もしくは彼女の望まないことをさせること。

b. 誰かに他者の手助けとなるボランティアをさせること。

c. 誰かに彼らの家庭学習をさせること。

d. 上記のどれでもない。

14.あなたはパーティーで上級生があなたに「おいベイビー、内緒で2階に行こう」と言われた。この「流れ」で最善の拒絶はどれですか。

a. 「私はそれがそんないい考えではないと思う」。

b. 「うーん…ええと…」。

c. 「私があなたと一緒に2階に行くいわれはない。私が本当に怒る前に放っておいて」。

d. 上記のすべて。

15.ラベル及び紋切り型のうちの危険の1つは

a. それらはしばしば偏見を反映している。

b. それらは人々に互いに本当に知るようになることを認めない。

c. それらは誰もが同じであることを仮定している。

d. 上記のすべて。

16.宣伝者がしばしば商品を売るために性及び性認識を活用するのは

a. 宣伝における性が人々の注意を引くから。

b. 宣伝における性が人々を当惑させるから。

c. 宣伝における性が販売を減少させるから。

d. そんなことはない。連邦食品・薬物行政局(FDA)は、宣伝において性的イメージを活用することが違法であると言った。

17.性への関連で、音楽は

a. しばしば関係、デート、別れのような社会的論題の考察への舞台を提供する。

b. 人々にとって別の方法で表現することが困難である情緒及び感情の表現を認めている。

c. 社会的規範における変化を反映したり、社会的規範を実際に変化させる。

d. 上記のすべて。

18. 妊娠、HIV感染を防止し、すべての主要な宗教によって保証され、費用のかからない避妊方法は何か。

a. 殺精子薬 b. 避妊スポンジ c. 経口避妊 d. 禁欲

19.次に挙げるすべてのうち、よい拒絶に関連していないものは

a. あなたが聞くときに「流れ」を認識すること。

b. 彼らがあなたの舌を巻きはずすように拒絶を実践すること。

c. あなたの拒絶に合う身振り表現及び声調を活用すること。

d. それらが人気がないので、あなたに「流れ」を与える誰かと話を続けること。

構成された反応問題

 あなたの解答を空欄に書き入れなさい。もし、あなたの解答を完成する十分な余白がないときは、用紙の裏を用いなさい。

 あなたが学校から本当に人を好きで、過去数か月間あなたに気がついたこの人を得たいと試みてきた。あなたは、あなたが最終的にいくらかの進展をしてきたと思っている。後日、この人は、あなたの更衣室にやってきて、ホームルームの前と昼食時に再びあなたと話した。あなたは、この人の両親が週末にいないことがわかった。その夜遅く、あなたは、その人からあなたに来るように頼む電話を受けた。

 大人の存在のないときに誰かの家に行くことが悪い考えであるという3つの理由を考察しなさい。

 大人が周辺にいないときにこの人の家に行くことを避けるために与えうる3つの拒絶を叙述しなさい。(ホウェイレン他,2007)

 

 これらの内容をみると、確かにコンドームや避妊方法についてもふれ、性的な誘いを断固として断るコミュニケーションの例も挙げてはいるが、結局「禁欲」が優先であることに誘導しようという意図が明白である。こうした内容の教科書を書く著者が「包括的性教育」と関連していると紹介されているところをみても、それが禁欲主義の影響を受けていることがわかる。また、目次からみる教科書の全体構成そのものも、「ファミリーライフ教育」の法律の趣旨に適っていると言ってよかろう。

 

V 禁欲主義の社会的背景と葛藤

 依然として影響力を有し、その対極として進歩的な方針と目されている「包括的性教育」を名乗る定義や教科書にさえ包括されている「禁欲」が、どのような社会的背景を有し、どのような葛藤を引き起こしているのかについて、レベイ他(2009)の叙述からみてみよう。

 アメリカ文化は、性的実践の考察に関して移行の状態にあるとみられている。一方で、人はコンピュータ直結の書店(online bookstore)を訪問し、本流の性だけでなく、拳で殴ることから動物と性行為することまで、あらゆる数の少数者の関心を網羅している本を購入することができる。他方で、学校における性教育は、依然として非常に論争的な論題であり、特に避妊、疾病防止、マスターベーション、同性愛の領域において性に対する従来の否定的な態度と開放性及び現実主義への願いの高まりとの間の葛藤を反映している。

 宗教的な論争では、多くの理由で学校における性教育プログラムに反対している。例えアメリカ人全体の5%だけしか従っていないとしても、彼らは、結婚まで禁欲が道徳的命令であることを確信し続ける。彼らは、性教育を政府ではなく、親の優先権である私事としてみている。彼らは、性教育がどんな内容であっても、その効果は関連した危険な結果で十代の間の性的活動を合法化し、促進することになると確信している。

 いくつかの宗教上の保守的グループからの圧力のため、学校の性教育において、禁欲に強い重点が置かれている。2006年におけるガットマッチャー研究所の研究結果によると、アメリカの十代の3人のうち1人は、受胎調節について何も教育を受けていないことがわかった。教育をする者のなかにさえ、必要とするとき、多くの者はそれを受けていなかった。

 学校における包括的性教育に反対する他に、連邦政府はまた、国際的な性教育主導にも反対してきた。1994年にアメリカは、「カイロ行動計画」を生み出す際に178の国と合同した。そこでは、包括的性・家族計画教育への権利に賛同した。しかし、10年後の会合で、アメリカ代表は、禁欲のみの教育の方を選んで、これらの規定を削除する行動に出た。

 これらの政治的態度は、かなりの大衆の支持なしには存在しえなかった。一例として、2008年に著者の知人のうちの1人が、同性結婚について、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校での人間の性の授業において学生を調査した。500余りの学生のうち1人だけがそのような結婚の合法化に挙手し、そして当時のアメリカの半数以上が合法化に反対したという。

 アメリカにおいては、学校の性教育は、場所によって大きく異なっている。ブッシュ政権期、連邦政府は、「禁欲のみの教育」を指示する補助金を州への性教育に方向づけてきた。そのような州の1つ、サウスカロライナ州の2004年現在の公式方針の要約では、性教育は、人間生理学、概念、出生前ケア及び発達、出生後ケアにおける指導を含み、結婚まで禁欲が強調されている。病気感染の危機を伝えることを除き、非再生産的性実践の言及は全くないことになっている。避妊は、結婚の背景においてだけ教えられている。中絶は、討議されることができず、病気感染の危機に重点を置くことを除いた同性愛の実践や関係もできないことになっている。

 アメリカの学区の14%だけが、性的に健康な大人になるための青年に準備させることを構想されたより幅広いプログラムの一部として禁欲及び避妊の両方を含むことを意味することで包括的であると叙述されていた。しかし、包括的性教育を提供する学校は、しばしば子どもを性教育の授業から連れ出すことを主張する親からの反対に直面してきた。2007年に連邦補助金を受領していたミズーリ州は、公立学校において中絶を遂行する組織を禁止する法律を制定した。これは、「親時代の計画化(Planned Parenthood)」、病院、その他の当局から何ダースもの優秀な教育者を奪った。

 健康教育担当者のクララ・ハイジネアは、学校の性教育プログラムの効果性に関する研究の詳細な検討を引き受けてきた。彼女の分析によると、禁欲のみのプログラムは、十代の性的行動に関してほとんどまたは全く効果を有していないが、他方で、包括的性教育は、十代に性的行動を遅らせ、彼らが性的に積極的になるとき、より避妊を活用させる傾向にあるという。


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 カリフォルニア州及びペンシルベニア州を含む少数の州は、包括的性教育を提示することができるように、連邦補助金を拒絶してきた。例えばカリフォルニア州の方針は、指導が年齢相応で、医学的に正確で、すべての人種、ジェンダー、性的志向性、民族及び文化的背景、障害のある生徒での活用に適切であることを要件としている。第7学年から始まり、指導は禁欲について含まなければならないけれども、妊娠防止及び性感染症を防ぐ他の方法に関する情報も提供している。この指導は、緊急避妊を含む妊娠を防止する際に、すべての連邦食品・薬物行政局の承認した避妊法のうち、効果性及び安全性についての情報を提供しなければならない。(レベイ他,2009)

 このように、宗教上の背景をもつ保守的なグループの影響があってブッシュ政権も「禁欲のみの教育」に補助金を交付してきたのであるということがわかる。そしてレベイ他(2009)では、そうした保守的な方針を背景にした「禁欲のみの教育」に疑問を呈し、包括的性教育の妊娠率の低下という効果を評価しながらも、下記の内容のように、学校の性教育ではない避妊情報源による妊娠率の低下の効果も評価したり、その包括する「禁欲」の意義にも肯定的な見解を示しており、この点は不可解である。あるいは、「禁欲」を今なお主張する保守的グループに配慮した妥協的提言であるのかもしれない。

 

 アメリカにおける性教育の欠点がどんなことであっても、十代の妊娠率が着実に低下している。その比率は依然として多くの他の国よりも高いけれども、それは今や1990年における頂点を36%下回っている。この下落は、国際的な傾向の一部であり、改善された避妊活用に広く負っている。こうして多くのアメリカの十代は、学校の性教育プログラムより他の情報源から効果的な避妊について学んでいるようにみえる。これらは、「親時代の計画化の十代情報(Teenwire)」のようなコンピュータ直結の情報源を含むであろう。それにもかかわらず、アメリカの妊娠率は、避妊についてあらゆる教育を受ける前に性的に特に積極的になる2つのグループであるスペイン系及びアフリカ系アメリカ人の十代のなかで気がかりなほど高いままである。

 精神におけるこの保守的風土の存在を保つことが重要であり、悪意(ill-intentioned)や情報不足(uninformed)として退けることではない。例えば、性的禁欲は、あなたの性の授業において一般的な主題ではないかもしれないが、性的に積極的である人々によるコンドームの活用に加えて性的禁欲及び性的一夫一婦結婚を促進している運動が、アフリカにおける少なくとも1つの国−ウガンダ−においてHIV感染率を低下させる際に劇的な効果を有し、そしてそうする際に無数の命を救ってきたという事実がある。比較可能な性教育運動がアメリカ、特に望まない十代の妊娠及び性感染症を低下させる成果においても居場所を得ている。

 

W 各州における方針の分析

 各州における性教育実践の差異ということが前節の叙述にもあり、大藤(2008b)は、1999年時点で全米の50%未満の公立校が避妊を、33%が性的指向をカリキュラムのなかに含んでいたこと、2002年にメイン州では「禁欲と医学的に明確な避妊と両方の情報を含む、年齢に即した性教育を幼稚園から高校まで施す」と法律に規定したこと、2003年時点で禁欲のみの教育を遂行していたのは35%の公立学校区でオハイオ州が一番多かったこと、2004年にカリフォルニア州では「禁欲、人のセクシュアリティ、避妊、妊娠、性感染症について適格な年齢で教える。また公立校では禁欲教育だけを行うことを禁じる」という法律が制定されたこと、同年にペンシルベニア州、翌年にはメイン州も禁欲教育の連邦政府予算を断ったこと、20069月から20073月までに行われたミネソタ大学の調査では、オレゴン、ミズーリ、アラバマ、ワシントン州でも「医学的裏づけのある性教育」が採択されたことを例に挙げている。これらのなかには、前節の叙述とも符合する箇所はある。筆者はさらに、別途この件について分析した2つの情報を提示したい。

 まず、ブルエス他(2009)は、2007年におけるガットマッチャー研究所の調査結果から、1)性教育の方針が州法において指示されているか、2)教える場合に禁欲を要件としているか、3)避妊を要件としているか、4)性感染症/HIV教育の方針が州法において指示されているか、5)教える場合に禁欲を要件としているか、6)避妊を要件としているか、7)親の役割に同意を要件としているか、8)選択的離脱(opt-out)を許可しているかという観点で一覧を提示し、以下のように整理している。

 多くの州は、公立学校が性や性感染症/HIVのいくつかの様式を教えることを要件としている。多くの州はまた、それ自体の指導を指示していないものも含み、学区の教育課程において禁欲や避妊が含まれるとき、どのように取り扱われなければならないかに関して要件を置いている。この指針は、禁欲に対して非常に重きを置いている。対照的に、多くの州が避妊の網羅されていることを認めるか、要件としているけれども、それが強調されているものはない。さらに、生徒が性や性感染症/HIVに関する指導を受けるかどうかは、親の同意要件か、またはより頻繁な選択的離脱条項であり、そのことは親が反対可能であるとわかる指導から生徒を連れ出すことを親に認めている。

 19の州及びコロンビア特別区は、公立学校が性教育を教えることを指示している。多くの州は、性教育を指示していないものを含み、禁欲及び避妊が教えられるときは、どのように扱われるかに関する要件を置いている。

 23の州は、性教育の一部として教えられるときに禁欲が強調されることを要件としている。10の州は、それが指導の間に網羅されていることを簡潔に要件としている。

 15の州及びコロンビア特別区は、性教育プログラムが避妊を網羅することを要件としている。それが強調されることを要件としている州はない。

 35の州及びコロンビア特別区は、性感染症/HIVの規定を要件としている。多くは、禁欲及び避妊がどのように扱われるかに関する要件を置いている。

 26の州は、性感染症/HIV教育の一部として教えられるときに禁欲が強調されることを要件としている。11の州は、それが網羅されていることを要件としている。

 18の州は、性感染症/HIVプログラムが避妊を網羅していることを要件としている。それが強調されることを要件としている州はない。

 38の州及びコロンビア特別区は、性及び性感染症/HIV教育における親の関与を許可することを学区に要件としている。

 3の州は、生徒に性や性感染症/HIV教育に参加するための親の同意を要件としている。これらのうちアリゾナ州では、親の選択的離脱も要件とされるとともに、性教育は指示されてはいないが、性教育及び性感染症/HIV教育における禁欲が強調されている

 35の州及びコロンビア特別区は、指導から子どもを連れ出すことを親に認めている。

 アラバマ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、バーモント州では、親の生徒の連れ出しは、宗教的または道徳的信念に基づかなければならないとしている。

 アリゾナ州、モンタナ州、ニューヨーク州、ペンシルベニア州では、選択的離脱がHIVに関する指導を含み、性感染症教育に許可されているだけである。アリゾナ州においては、親の同意が性教育にだけ要件としている。

 イリノイ州では、禁欲を含む一般保健教育を指示する幅広い一連の法律を有する。より特定の二次的な法律が、禁欲を強調し、HIV/性感染症防止としてコンドームの効果性に関する統計を提供するための性教育を提供することを学区に要件としている。

 ミシシッピ州では、地方自治体は、禁欲を含む性教育論題への州の要件を越えてもよいとしている。州は、「要件とされた構成要素と矛盾する」資料を含むことを禁止している。

 サウスダコタ州では、禁欲が、州に指示された人格教育の範囲内で教えられている。

 ユタ州では、法律の要件と対立する方法において生徒の自発的な質問に回答することを教師に禁止している。

 この一覧表において性教育にも性感染症/HIV教育にも禁欲を要件としていないのは、アイダホ州、アイオワ州、カンサス州、マサチューセッツ州、ネバダ州、ニュージャージー州、サウスダコタ州の7州とコロンビア特別区であった。これらのうち、コロンビア特別区だけが性教育における避妊を要件としており、その表における位置づけとしては、この自治体が最も「禁欲主義」から遠いといえる。

 次に、50州の性教育に関わる情報を提示したウェブサイト(http://www.sexetc.org/state)において、2008会計年度中に禁欲に関する教育への連邦補助金を受領したことを記載していなかった州を調べたところ、デラウエア州、アイダホ州、ミネソタ州、モンタナ州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州、ワイオミング州の9の州であった。これらは、補助金を受領したことを記載していなかっただけで、実際は受領していたものもあるのかもしれないが、受領していない可能性があるという点で、注目してよいと思われる。前述のコロンビア特別区は、ここでは受領した州として挙げられているため、ここでは除外したい。

 これらのうちアイダホ州及びワイオミング州では、いずれも性教育もHIV/エイズ及びその他の性感染症教育も州法の要件にはないということで、簡潔にしか記載されていなかったが、また同時に「禁欲」にも言及していなかったことは特記に値する。さらに、いずれもHIV/エイズ及びその他の性感染症教育の授業に関して親の許可を得る必要はないとしているが、アイダホ州では、選択的離脱条項がある。さらにこの州は、家族生活及び性教育に関する責任が、主要には家庭及び教会にあるので、プログラムも重点をそちらに置いた方がよいとしている。そこには親の拒否権が強くはたらく可能性を窺える。

 残りの7の州は、性教育かHIV/エイズ及びその他の性感染症教育において、計画されない妊娠、性感染症、HIV/エイズに対する唯一の完全で効果的な防護として「禁欲」が教えられるか、あるいは網羅されていなければならないとしている。これらのうちデラウエア州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州では、いずれも性教育にもHIV/エイズ及びその他の性感染症教育にも、コンドーム、ピル、パッチを要件としている。さらに、いずれもHIV/エイズ及びその他の性感染症教育の授業に関して親の許可を得る必要はないとしているが、デラウエア州以外の3州では、選択的離脱条項があり、殊にバーモント州ではその背景に道徳的宗教的条件を付している。

 以上により、50州のうちでワイオミング州が最も禁欲主義教育とは遠い位置にあるとみてよいが、同時にそれは性教育に関する消極主義でもあるので、コンドーム等についても要件に挙げ、親の干渉の権利を公的に認めていないことで、積極的な包括的性教育規定としては、デラウエア州が最も条件の良いといえる。ただし、これらの資料は、ブッシュ政権下のものであることに留意する必要がある。

 

X オバマ政権における動向


 大藤(2008b)も指摘していたように、オバマ政権への交代時には、ブッシュ政権期において劣勢であった女性解放運動への支援が期待され、確かに200936日には 反避妊規則を廃止するための提案を発表している(http://www.nfprha.org/main/media_detail.cfm?ID=103)。そして性教育への方針転換の動きについては、次のように報じられている。

 

オバマ予算は、禁欲のみの性教育予算を削除している

 オバマ大統領の新しい予算は、禁欲のみの性教育を削除し、それを十代の妊娠防止へと転換している−連邦において10年以上の間続いた性教育方針の180度転換。

 提案された予算は、連邦議会の最後の火曜日に送られ「その研究を反映している」と、ホワイトハウス国内方針を調整するチームの担当長のメロディ・バーンズは言った。

 「アメリカ人は、問題に直面しているあらゆる領域において、彼らの知っているプログラム化が、成功するとわかっていないことに対して、彼らの知っている解決が作用するであろうことを望んでいる。

 禁欲のみの性教育プログラムは、結婚まで性行為なしの主張を強調し、管理・予算局により、2001-09会計年度に連邦資金のおよそ13億ドルを受領した。同時に、禁欲のみのプログラムの研究は、ほとんど成功を示さなかった。最もしばしば引用される研究は、2007年に発表され、連邦議会で指示され、連邦の補助を受け、禁欲のみのプログラムが十代の性を防止も遅らせもしていないことがわかった。

 全米禁欲教育協会のバレリー・ヒューバーは、2007年の研究は、「初期のプログラムについての初期の研究であった。事情は変化してきた」と言っている。2週間後、彼女は、禁欲教育が性的行動に影響を与えないという議論を論破したと彼女が言っている研究の分析について、連邦議会の援助を要約した彼女の組織のことを言っている。

 バーンズは、禁欲のみのプログラムも効果性の証拠があれば、補助を受ける可能性に予算が開かれたままであると言っている。

 オバマの予算は、地域立脚プログラムへの11千万ドルを含む十代の妊娠防止へのおよそ17,800ドルを提案している。その約75%は、性行為を遅らせ、避妊の活用を増やしたり十代の妊娠を減らしたことが証明されたプログラムへのものである。残り25%は、「革新的な」プログラムへなされうる。

 オバマは、「革新に開かれており、それがいくらか作用するとしても、禁欲のみを含みうる」とバーンズは言う。

 ヒューバーは、彼女の組織が禁欲教育に補助を続けるために、連邦議会を納得させるために一層仕事をしなければならないと言っている。「われわれは、連邦議会に彼らがどんな研究を有しているかを知らせ、禁欲プログラムが真に何であるかを共有させるために、国の周辺で禁欲プログラムを奨励している」。(USA TODAY. 2009.5.11http://www.usatoday.com/news/health/2009-05-11-abstinence-only_N.htm

 

 上記の動向について、マテュー・ジョンソンは以下のように解説している。

 

 オバマ政権は、禁欲のみのプログラムから十代の妊娠対策へと資金支出を転換してきた。安全な性行為(性的快楽への防護または代替的方法)についての情報を引っ込めるよりむしろ、この政権は、性教育の前にそれを持ってきている。これは、何が教えられなければならないかという親及び宗教上の確信のため、公立及び私立の学校制度において、いくらかの抵抗を引き起こしてきた。重点は、依然として禁欲にあるが、必要な補助金を受領するために、彼らは性的な情報の他の方法を活用しなければならない。(2010.12.8における私信)

 

 これらをみると、「禁欲のみのプログラム」が偏重される傾向からの転換は表明されたものの、依然としてその存続の余地はあり、十代の妊娠防止への効果があるかどうかで、支援の可否を決めるという成果主義の方針をみることができる。この方針が展開されていくなかで、前節で検討したような各州の方針の類型化もまた可能になってくると想定される。そのとき、補助金交付対象のプログラムが、禁欲を規準としたものではなく、妊娠率低下への効果を規準としたものになり、その際の効果のあった方法として、禁欲が効果があったとるするのか、いかなる避妊法が効果があったとするのかという点で類型化されることも予想される。そして、形式的であれ、禁欲を教えるという表記を残すかどうかも、注目され� ��ところである。それを克服しえて、禁欲主義からの離脱が達成されるというものであろう。

 

おわりに

 以上みてきたように、アメリカでは宗教上の保守的な社会的背景から性教育に禁欲主義の影響が今なお残存し、進歩的な方針を取っていると目される「包括的性教育」のなかにもそれに対する肯定的見解があること、さらに州によっても差異があり、ブッシュ政権下のデータながら、「禁欲」要件から遠く位置づけられる州もあることがわかった。ただし、直接に現場を取材したものではなく、間接的な資料に基づくものであり、その検証は、オバマ政権における変化の把握とともに、また別の機会に委ねられなければならない。

 キャロル(2007)は、ガットマッチャー研究所によってなされた研究において、アメリカは、十代の妊娠中絶、そして十代の出産の比率において、世界におけるほとんどすべての発展した国を上回っており、全体的に、性に対して自由主義的な態度を有する国は、十代への受胎調節に容易に関与可能であり、公式及び非公式の性教育が、十代の妊娠、中絶、出産の低い比率をもたらしているとして、カナダ、オランダ、スウェーデンの実態の一端を提示している。しかし、それらのような性教育先進国が、どのような条件の下で形成されたのか、また、それぞれを検討していくと、アメリカのように国内事情に問題をはらんでいることが判明するのかもしれず、詳細な検討が必要であろう。ただ、同じ箇所において日本の現状を紹介� �ている以下のような叙述は、1箇所を除き、実態にきわめて即しているといえる。

 

 日本においては禁欲教育が非常に有力であるけれども、1974[正しくは1972]に日本性教育協会(JASE)が、学校における包括的性教育を設定する手助けをするために結成された。アメリカと同様に、日本における有力な性情報源は、友人及び年長の同性仲間、雑誌、テレビを含む。

 1986年に新しい性教育課程が、日本においてすべての中学校及び高等学校へ配分された。1992年に日本の文部大臣が、性の教育課程を改訂し、男女共学の第5学年授業において第二次性徴の討議を認めた。実際に、1992年は「性教育元年」と呼ばれ、性教育が学校において要件とされた。このときまで小学校において性の討議は全く存在しなかった。

 小学校における多くの教師は、これらの変化を非常に不快に感じていた。性について話すことは、教師及び多くの日本の市民の両方にとって非常に心配を生み出すことである。加えて、これらの教師への公式の性の訓練は何もない。

 しかし、今日、性教育を教えることに関心のある教師の数が増加している。教師研究会及び教育プログラムが、性での高まる快適な段階に加わっている。しかし、全体的には、性教育に対するこれらの開放的な態度は、反対なしに進められてはこなかった。実際、性教育が、離婚の増加及び家族の破壊をもたらしたとして、性における規範変動への非難がなされてきた。(キャロル,2007)

 

 あるいは、日本性教育協会自体が情報提供に協力しているのかもしれない。日本においては、宗教上の背景が全くないとはいえないが、アメリカよりその影響は希薄ではないかと思われる。日本に生きるわれわれも、性教育先進国の実践を可能にしている様々な条件に学びながら、困難を抱えるアメリカとともに、前進の途を探っていきたいものである。

<本稿は、2010-11年度における長期国外留学研修の成果の一部である>

参考文献

 大藤恵子(2005a)「海外情報 アメリカレポート メイン州ルイストン高校の保健教育A」『季刊セクシュアリティ』22,156-159.

 −−(2005b)「海外情報 アメリカレポート(3)メディアの『ヤングティーンとセックス調査』」『季刊セクシュアリティ』23,156-160.

 −−(2008a)「海外情報 海外レポート 07年世界のニュースからA」『季刊セクシュアリティ』34,164-167.

 −−(2008b)「アメリカの最新性教育レポート (特集 もっと2性教育)」『季刊セクシュアリティ』37,60-63.

 池上千寿子(2003)「禁欲・純潔の強調でなぜHIV/STIは防げないか」日本家族計画協会,家族計画国際協力財団,ジョイセフ,"人間と性"教育研究協議会,ぷれいす東京編(2003)『アメリカの禁欲主義教育と日本の性問題』エイデル研究所.34-51.

 Bruess,C.E.,et al.(2009)Sexuality Education: Theory and practice(5th ed.)JONES AND BARLETT PUBLISHERS.

 Carrol,J.L.(2007)Sexuality Now: Embracing diversity.(2nd ed.)Thomson Wadsworth.

 LeVay,S.,et al.(2009)Human Sexuality(3rd ed.)Sinauer Associates,Inc.

 USA TODAY. 2009.5.11http://www.usatoday.com/news/health/2009-05-11-abstinence-only_N.htm

 Whalen,S.,et al.(2007)Tools for Teaching Health: Interactive strategies to promote health litercy and life skills in adolescents and young adults.John Whiley & Sons,Inc.

 http://www.sexetc.org/state

 http://www.nfprha.org/main/media_detail.cfm?ID=103

 



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